表具師という仕事の醍醐味
京表具伝統工芸士 田中善茂さん
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<弘誠堂というお店>
弘誠堂(こうせいどう)は、「京表具伝統工芸士」の田中善茂さんが経営する表具師のお店です。店主の田中さんのお父さんが、昭和28(1953)年に独立して始められました。
田中さんは現在、京表具協同組合連合会の理事長をされています。やさしい笑顔が印象的な、物腰の柔らかい方です。
お店は、千本丸太町をすこし北に行った「大極殿跡公園」から西へすぐのところにある、仕舞屋(しにたや)風のお家で、2階が仕事場になっています。職人仕事ですから、表通りに店を構えるということもありません。
田中さんは若い頃には〝バンド″に熱中していたこともあったそうです。夜遅くまでお父さんとともに仕事をして、それから徹夜でバンド演奏に出掛けたこともあったといいます。そんなエネルギーも秘めています。
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<表具師という仕事>
ところで、「表具師」という仕事をご存知ですか。「表具」は。「表層」と呼ばれることもあります。古くは「経師(きょうじ)」とも言われました。
ではそもそも「表具」とはどんな作業のことなのでしょうか。
表具とは、掛軸・屏風・衝立・襖・巻物・画帳などに、紙や布を「貼り付け」て「仕上げ」をする仕事全般を指しています。
でも「表具師」という仕事は、単に襖貼りや屏風貼りなど、「貼る作業」だけではありません。古くなった掛軸や画帳、屏風などの「洗い」や「修復」なども手掛けます。古くなった掛軸といわれても、ピンとこないかも知れませんね。
あなたが美術館や博物館などへ、○○寺国宝美術展などという催しの見物に出掛けたとしましょう。その時あなたは、ガラスを隔てた向こう側に、「曼荼羅(まんだら)絵図」などという、国宝に指定されているような大きな掛軸を見ることになるでしょう。こうした文化財や美術品こそが、「古くなった」掛軸です。
時には1千年の時を経たような、国宝や文化財、美術品でも、「しみ抜き」や「カビ落し」、「破れの修理」や「色落ちの修復」など、きちんとした手入れをしていないと、大切な文化財が痛み、朽ち果ててしまうことにもなります。
こうした作業を行うことも、表具師にとっては大切な仕事なのです。
どうですか。少しはおわかりいただけたでしょうか、表具師という仕事を。
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<京都の表具師は減っている>
こんな仕事ですから、仕事そのものも古い歴史を持っています。
京都の町は、総本山、大本山といった格の高い多くの大寺院や、茶道や華道の家元など、さらに民間の美樹幹などが所有する、文化財・美術品に囲まれている土地柄です。そのため、こうした品々の修理・修復という意味でも、表具師の仕事は欠かせないものです。
それに、日本の家は客間に床の間があり、そこには掛軸が懸けられ、部屋の周囲は襖や障子で囲われていました。こうしたものすべては、表具師の手で仕上げられていました。
しかし今、私たちの生活スタイルが大きく変わっています。失礼ですが、あなたのお住まいには「床の間」がありますか。そもそも床の間がなければ、掛軸を懸ける場所もありません。そのかわり額に入った絵画が、壁に飾られることでしょう。
あなたのお家に襖はありますか。襖はまだまだあると思います。でも、もしその襖が破れたり傷んだりすれば、その後、その襖はどうなるでしょうか。
生活が洋風化し、リビングで暮らすスタイルが普通になりました。そうなると、表具師にとっては、大事な仕事の場がどんどんと減って行きます。この10年余りで、京都の表具師は半分以下に減ってしまいました。
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<弘誠堂のこれから>
田中さんが若い頃に持っていたエネルギーが、今、とてもステキな方向に向かっています。襖や衝立という昔ながらの〝和風″の「しつらえ」から抜け出して、ヨーロッパのデザイナーとコラボした、リビングルームに置かれる「間仕切り」なども制作しています。
こうしてでき上がった作品は、ドイツやフランスの展示会でも好評を博しているそうです。田中さんは「外国の人たちの目線で考えたデザインから、新しい刺激を受けている」と話されます。
そこで、枠材から貼ってあるスクリーンまで、すべて杉材を用いたリビング用の間仕切りや、ステンレスのメッシュ金網という、無機質な素材の使用にもチャレンジしています。
その一方で、寺院で開帳される「釈迦涅槃図(しゃかねはんず)」など、文化財としての価値を持っている美術品の、大きな掛軸の修復などを手掛ける時には、1年がかりの作業になることもあるそうです。
シミを抜き、カビを落とし、破れを繕い、裏打ちの紙や布を貼り替え、細部の色落ちを補っていきます。根を詰めた、細かな作業が続けられます。
「表具師をしていると、美術館のガラス越しにしか見られない国宝級の文化財を、手に取って見ることができる」と、田中さんは話されます。「こうした楽しみがなければ」と笑っておられますが、こうした瞬間が「表具師」にとっての醍醐味だそうです。
【佐々木 雅一】
お店詳細情報
店舗名 | 弘誠堂 |
---|---|
住所 | 京都府京都市中京区聚楽廻中町27−12 |
営業時間 | |
電話番号 | 075-811-3394 |
定休日 | 日曜日 |
料金 | 応相談 |
座席数 | 応接室 |
駐車場 | ガレージ有ります |
URL | http://kyo-hyougu.com/ |
その他 |
店舗名 | 弘誠堂 | 料金 | 応相談 |
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住所 | 京都府京都市中京区聚楽廻中町27−12 | 座席数 | 応接室 |
営業時間 | 駐車場 | ガレージ有ります | |
電話番号 | 075-811-3394 | URL | http://kyo-hyougu.com/ |
定休日 | 日曜日 | その他 |